[刑訴法]共謀と訴因特定

刑事訴訟法

問題の所在

共謀共同正犯の共謀のみに関与した被告人の起訴状に、「共謀の上」としか記載されていない(共謀の日時、場所、内容が記載されていない)場合、訴因不特定となるのでしょうか。

【訴因の特定のための要件】

  1. 被告人の行為が特定の構成要件に該当するかを判定するに足りる程度に具体的事実を明らかにしていること
  2. 他の犯罪事実と識別できること
  3. 「できる限り」の要請

解釈論

主観的謀議説(実務)

共謀共同正犯における共謀は、実行共同正犯における共謀が実行行為の時点における共同実行の意思連絡と解されているのと同様に、謀議「行為」ではなく、「犯罪の共同遂行の合意」と理解する見解です。つまり、故意が実行行為と同時存在であるのと同様に、共謀も実行行為時に存在すれば足り、謀議行為は、実行行為時の「共同遂行の合意」を推認させる間接事実にすぎないと解します(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』195頁)。

この見解に立てば(主観的謀議説+識別説)、謀議行為の日時、場所、内容は、記載しなくても訴因不特定にはなりません

裁判所も、謀議行為の日時、場所、内容について、釈明を求める必要(義務)はありません。もっとも、被告人の防御の観点から、裁判所が検察官に裁量的に釈明を求めることは可能です(裁量的求釈明)。たとえ求釈明が裁量的なものであったとしても、釈明を求められた検察官は釈明義務を負います。しかし、検察官がこの求釈明に応じなかったとしても、訴因が特定している以上、裁判所は公訴棄却判決を出すことはできません

仮に、検察官が謀議行為の日時、場所、内容について釈明したとしても、訴因の内容となることはなく、裁判所がこれと異なる認定をすることが可能です(訴因変更しなくてよい)。

もっとも、その場合でも争点顕在化措置が必要になる場合があります。

共謀(犯罪の共同遂行の合意)は、「罪となるべき事実」だが、共謀の日時、場所、内容は、訴因として記載しなくてもよい。

「共謀の上」との記載のみでも、共謀という主観的構成要件に該当するかどうか判定するに足りる程度に具体的に明らかにされている(要件①具体性)。

客観的な実行行為の日時、場所方法等が特定されていれば、主観的な共謀の日時、場所、内容の特定がなくても、他の犯罪事実と区別できる(要件②識別)。

「できる限り」の要請の対象は、客観的構成要件である実行行為及び結果であって、主観的要件である共謀ではない。実行行為及び結果が起訴当時の証拠に基づき「できる限り」特定されていれば、「できる限り」の要請に応えたことになる(要件③「できる限り」の要請)。

補足:義務的求釈明と裁量的求釈明

訴因の特定は、審判対象の画定のため必要不可欠なものです。訴因の不特定の場合、裁判所は判決により公訴棄却しなければなりません(338条4号)。この意味で訴因の特定は公訴提起の有効要件であり、訴因の特定にとって不可欠な事項が欠ける場合には、裁判所は検察官に釈明を求める義務を負います(義務的求釈明)。

訴因の特定に不可欠とまではいえいない事項であっても、争点整理ないし被告人の防御のために明確にしておくのが望ましいもの(任意的記載事項)については、裁判所は釈明義務を負うわけではないが検察官に釈明を求めるのが望ましい(裁量的求釈明)。

補足:釈明内容は訴因の内容になるか

訴因の特定に不可欠な事項は、検察官が釈明すると訴因の内容になり、裁判所が検察官の釈明内容と異なる認定をするためには訴因変更が必要になります(検察官が釈明しても訴因の内容にならないとすると、訴因不特定のままになり、公訴棄却になります)。

訴因の特定に不可欠とまではいえない事項は、検察官が釈明しても訴因の内容になることはなく、裁判所は訴因変更を経ずに検察官の釈明内容と異なる認定をすることができます。

補足:争点顕在化措置

争点明確化による不意打ち防止の要請は訴訟の全過程を通じて要請されるものであるから、争点とされていない事項を認定することが、被告人にとって不意打ちとなり被告人の防御権を侵害する場合には、裁判所が適切に訴訟指揮権を行使し(294条)、釈明を求めたり(規則208条1項)、訴因変更を促すなど争点顕在化措置を採らなければなりません(よど号ハイジャック事件(最判昭和58.12.13)参照)。

客観的謀議説

共謀共同正犯が成立するためには、単なる意思連絡ないし共同犯行の認識を超えた「謀議」または「通謀」が必要で、これが実行共同正犯における実行行為の分担に比すべき客観的要件であると解する見解です(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』195頁)。

この見解に立てば、謀議行為の日時、場所、内容は、記載しなければならず、記載しなければ訴因不特定ということになります。

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