[刑訴法]実況見分調書の証拠能力

計測をする 刑事訴訟法
ほくる
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実況見分調書とは、どのような書面なのかな?

この書面は、どういう風に使えば証拠として用いることができるでしょうか。

実況見分調書とは

実況見分調書とは、捜査機関が任意処分として行う実況見分(検証)の結果を記載した書面のことです。

犯罪捜査規範105条(実況見分調書記載上の注意)
1 実況見分調書は、客観的に記載するように努め、被疑者、被害者その他の関係者に対し説明を求めた場合においても、その指示説明の範囲をこえて記載することのないように注意しなければならない。
2 ……

犯罪捜査規範105条1項は、立会人に説明を求め、その説明を調書に記載することを想定しています。

一般的には、この記載は立会人の供述を証拠にするための録取ではないので、立会人に確認を求めて署名・押印を得ることはしません(後藤昭『伝聞法則に強くなる』95頁)。

証拠能力の検討順序は?

実況見分調書は、以下のような内容となっています。

司法警察員などが、[実況見分者(x)の体験事実について]知覚等の過程を経て作成する。

その内容は、実況見分者(X)「私は、事件当日○○をこの場所から見ました」などの、[自分の体験事実について]知覚等の過程を経て供述したもの

実況見分調書の証拠能力を検討する場合、[➀]まず、実況見分調書全体について証拠能力が認められるかを検討します(司法警察員の伝聞性を否定できないかの検討)。

 そして、実況見分調書全体について検証調書に準じる書面として321条3項が規定する要件を満たし伝聞法則の例外として証拠能力が認められる場合には、[②]写真部分説明部分について、要証事実との関係で伝聞証拠に当たるか否か、伝聞証拠に当たる場合には伝聞例外の要件を満たすか否か、を検討していくことになります(実況見分者の伝聞性を否定できないかの検討)。

実況見分調書全体●●の証拠能力について

計画書

[前提]実況見分調書は、作成者[上記の例では司法警察員S]の公判廷外の供述、つまり「公判期日における供述に代」わる書面にあたり、内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たります。

そのため、伝聞例外の要件を満たさない限り、証拠能力は認められません(320条1項)。

321条3項説

Q.では、実況見分調書は、「検証の結果を記載した書面」(321条3項)に該当して、伝聞例外にあたり、証拠能力が認められないでしょうか。

 321条3項が検証調書について伝聞例外の要件を緩和しているのは、「検証」が場所等の状態についての客観的認識作業であり作成者の主観により歪められるおそれが少ないうえ、検証はその内容が詳細であるため書面による報告の方が口頭の報告よりも正確で理解しやすいからです。

「客観的認識作業である」とは、専門的な捜査で恣意の介在する余地が少なく、書面による詳細な報告である性質をことを指しています。

 検証と実況見分とは、強制処分と任意処分の違いはあるものの、同じく捜査機関の行う客観的認識作業であって、行為の性質・内容やその結果の正確性に相違はなく、また、その結果を記載した書面の方が公判廷における口頭による報告よりも正確であって理解しやすい点においても相違はないため、実況見分調書は、検証調書に準じる書面として、321条3項により、作成者の真正作成証言があれば証拠能力が認められると解すべきです(最判昭和35.9.8百選10版A39事件参照)。

したがって、実況見分調書は作成者が公判廷において、その名義及び内容の真正を証言すれば、321条3項により証拠能力が認められます。

321条3項説

検証と実況見分は、強制処分であるか否かという違いがあるのみで、専門技術を有する捜査官によって客観的に作成されるために主観的要素が入り込む余地が少なく、調書の内容が複雑かつ専門的なため書面による方が正確であり詳細でもあるという性質は同様である。

刑事訴訟法321条(被告人以外の者の供述書・供述録取書の証拠能力)
1 ・・・
3 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第1項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。

「真正に作成されたものであることを供述」の意味
単に調書の作成名義が真正であること、内容の真実性についても尋問を受けることをいいます。調書の作成者が死亡などのため出頭できなければ、原則に返り321条1項3号を適用して伝聞例外にあたるか検討することになります。

判例は、321条3項を「適用」としていますが、「類推適用」ではないかという指摘がなされています。

[321条3項説に対する批判]
➀検証は、原則として裁判官の令状(218条1項)に基づき行われる。そのため、観察・記述を意識的に行い、正確な内容となる。一方で実況見分にはこの保障はない。
②実況見分調書を321条3項に含むとすると、私人がその認識を記録したものも同様に取り扱わねばならないことになりかねない。

[反論]
法は検証について原則として令状を要求しているが、これは検証を被処分者の権利を保障するための規定であって、検証の内容、方法については何ら規定していない。そのため、令状を受けたからといって内容の正確性が保障されるというわけではない。

321条1項3号説

321条3項の適用が否定されると、321条1項3号の厳格な伝聞例外の要件を充さなければなりません。


写真部分●●●●説明部分●●●●の証拠能力について

カメラマン

「写真部分」や「説明部分」の証拠能力が認められるかについては、2つの考え方があります。

伝聞証拠の該当性を検討する方法

実況見分調書の指示・説明の記載、及びこれを示す写真は、供述者の供述を内容とするものです。

そのため、伝聞証拠に該当するかを検討する必要があると考えます。

現場指示・現場供述に分類して検討する方法

実況見分調書に記載されている立会人の供述は、現場指示現場供述に分類されます。

現場指示
⇒実況見分すべき地点、物自体を確定する必要からなされる説明で純粋に実況見分の目的の対象を指示することだけを内容とするものをいう。

現場供述
⇒現場の状況を見せつつ、あるいはそれを指示させつつ、事件当時のことを供述させると供述がより正確になり、実況見分者も正確に理解できるという理由からされる説明をいう。

現場指示は、実況見分と一体のものであるということができ、321条3項の要件を満たすだけで証拠能力が認められます(最判昭和36.5.26百選8版A33事件)。

 もっとも、立会人の現場指示の記載が実況見分調書の一部として証拠採用できるのは、それを実況見分の経過と調書の意味を理解するために使う場合に限られ、現場指示に当たる立会人の供述でも、その供述どおりの事実があったという推認に使うのであれば、実質において現場供述となるため、321条3項の要件では証拠能力が認められません。

 それに対して、現場供述は、内容の真実性が問題になるため、実況見分と一体であるとはいえず、321条3項の要件では証拠能力が認められません(最決平成17.9.27百選10版83事件)。

現場指示・現場供述の検討であっても、その内容は伝聞証拠該当性の検討内容と同一であるといえます。現場指示は非伝聞と評価され、現場供述は伝聞と評価されていると言えます。

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