[刑訴法]現行犯逮捕・準現行犯逮捕

刑事訴訟法

制度趣旨

憲法33条は「現行犯として逮捕される場合を除いては、…令状によらなければ、逮捕されない」と規定しています。これを受けて、刑訴法が、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」を現行犯人として(212条1項)、「何人でも、逮捕状なくして」逮捕できる(213条)としています。

ここから、現行犯逮捕が令状主義の例外であることが分かります。

令状主義とは、捜査機関が強制処分をする場合には、一定の場合を除いて、あらかじめ裁判官の発付する令状によらなければならないという原則です。
 令状主義の趣旨は、捜査機関から独立した第三者である裁判官に逮捕の理由を審査させ、その理由を令状によって明示させることにより、捜査機関の権利濫用や正当な理由に基づかない身柄拘束を防止することにあります。

 現行犯逮捕が令状なくして認められる(憲法33条)のは、現行犯の場合、現場における客観的状況等から逮捕者にとって犯罪と被逮捕者との結びつきが明白で誤認逮捕のおそれが低く、かつ、被疑者の身柄確保のためその場で逮捕する緊急の必要性が高いからです。

要件

現行犯逮捕の根拠条文は213条であり、213条の「現行犯人」の定義を212条1項・2項が定めています(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』56頁)。

刑事訴訟法212条(現行犯人)
1 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
 一 犯人として追呼されているとき。
 二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
 三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
 四 誰何されて逃走しようとするとき。

刑事訴訟法213条(現行犯逮捕)
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

現行犯逮捕の要件

【要件】

  1. 逮捕者にとって、犯罪と被逮捕者が犯人であることが明白であること
  2. 犯罪が現に行われていること又は犯罪と逮捕とが時間的に接着していること、及び、それが逮捕者に明らかであること
  3. 逮捕の必要性:明らかに逮捕の必要がない(罪証隠滅・逃亡のおそれがない)とはいえないこと

要件①犯罪と犯人の明白性

犯罪が行われていること又は行われたことの明白性(犯罪の明白性)と、被疑者が犯人であることの明白性(犯人の明白性)は212条1項の「現に罪を行い」「現に罪を行い終わった」という文言から導かれます。もっとも、この要件の形式的根拠は上記の条文の文言ですが、実質的根拠は現行犯逮捕の制度趣旨にあります。

上述のとおり、現行犯人につき無令状逮捕が許容される趣旨は・・・

❶犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であり誤認逮捕のおそれが低いこと 

❷犯人の身柄確保のためその場で逮捕する緊急の必要性が高いこと

これらにあります。

この❶の点から、犯罪と犯人の明白性の要件が導かれます。

この要件は、逮捕者にとって明白でなければなりません。

Q.では、被害者や目撃者が、警察官に犯人の逮捕を求めた場合、警察官(逮捕者)にとって犯罪と犯人が明白でなくとも、被害者や目撃者にとっては犯罪と犯人が明白であれば、警察官は、被害者や目撃者に代わって犯人を現行犯逮捕できるのでしょうか。

「逮捕者が現場の状況等から被逮捕者が現に罪を行い又は行い終わったことを直接確知しえない場合であっても、他の直接これを確知した者の要求により、この者に代わって現行犯逮捕することは認められてもよい」とする見解があります(小田健司『令状基本問題(上)』153頁)。

これによると、被害者や目撃者が現行犯人の認定と逮捕の意思決定をしているのであれば、明白性判断の主体(現行犯人を認定し逮捕を行うのは誰か)はあくまで被害者や目撃者であって警察官ではないということになり、警察官について明白性を問題にする必要がなくなります。警察官が行った逮捕行為は、事実行為としての逮捕ということになります。

被害者の父親が被害者に代わって逮捕したかどうかが問題となった東京高判平成17.11.16は、父親が被害者に協力する形で被害者に代わって逮捕したとみて、被害者と父親の2人による逮捕と捉えました。

【明確性を判断するための資料の範囲についての論点】

  1. 現行犯逮捕が私人でもできることから、一般人(私人)が直接認識しうる資料に限られるのではないか?警察官が職業上得られた知識や経験、110番通報・通信指令などから得た情報を含めることができるか?
  2. 現場における客観的状況とは言い難い、被害者や目撃者の供述、被疑者の自白も含まれるか?
論点1について

通説実務は、一般人(私人)が直接認識しうる資料に限定されず、警察官が職業上得られた知識や経験、110番通報・通信指令などから得た情報を含むことができるとしています。

論点2について

 明白性を肯定するためには、時間的・場所的近接性とあわせて、犯行現場の状況、被害の状況、犯人の挙動や所持品等の客観的要因を考慮する必要があります。そうだとして、客観的要因以外も考慮してよいのかが問題になります。

【限定説】
 現行犯人につき無令状逮捕が許容される趣旨が現場における客観的状況等から犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であり誤認逮捕のおそれが低いことにあるとすると、現行犯人の認定に用いることができる資料は、客観的外部的状況に限定されるとする見解です。

この説に対しては、客観的外部的状況のみで犯罪と犯人の双方の明白性を認定できる場合はほとんどなく、被疑者の自白や被害者の被害状況についての供述と相まって初めてそれらが認定できるため限定説は現実的でないとの批判があります。

【非限定説】
 現行犯逮捕が無令状で許容される趣旨から、犯罪と犯人の明確性ののにんていは、緊急状況下での現行犯逮捕の現場での判断として、信用性が高いと合理的に判断される証拠に基づいて行われる必要があるが、被害者や目撃者の供述であっても、それが信用できるものである限りは制度趣旨に反せず、用いてもよいとする見解です。

この説に対しては、(限定説から)現場の状況等から犯人であることが客観的に明白であることから令状主義の例外とされ、私人による逮捕も認められている現行犯の概念を著しく不明確にするとの批判や、(折衷説から)他の客観的な状況もないのに関係者の供述のみで犯罪と犯人の明白性の判断を確実に行いうる事態が想定しがたく、現行犯人性の判断の弛緩化を防止するためにも、被害者や目撃者の供述は補充資料にとどめるべきとの批判があります。

【折衷説】
 被害者や目撃者の供述も意味を持つが、それらが本当に信用できるかどうかはその時点ではわからない以上、逮捕者による犯人性に関する判断を客観的に担保するものではなく(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』62頁)、客観的外部的状況に加えて、補充的に被害者や目撃者の供述や被逮捕者の自白等の供述証拠を客観的状況を補充するものとして認定資料となし得るにとどまるとする見解です(古江頼隆『事例演習刑事訴訟(第2版)』60頁)。

京都地決昭和44.11.5
 逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身が直接的に覚知した場合でなければならず、被害者等の通報を資料として覚知できるというだけでは現行犯逮捕はできないとしました(限定説)。なぜなら、現行犯逮捕は人の身体の自由を侵害する強制処分であり、その要件はできるだけ厳格に解すべきだからです。

要件②犯罪と逮捕の時間的接着性

「現に罪を行い」(212条1項)から現行性、「現に罪を行い終わった」(212条1項)から時間的接着性が導かれます。

「現に罪を行」っている者とは、逮捕者の眼前において、特定の犯罪の実行行為を行いつつある者をいいます。また、「現に罪を行い終わった者」とは、特定の犯罪の実行行為を終了した直後の者であって、そのことが逮捕者に明白である場合をいいます(白取・後藤『新・コンメンタール刑事訴訟法(第3版)』535頁)。

時間的接着性だけでなく、場所的接着性も現行犯逮捕の要件であると考える見解もあります。しかし、場所的接着性は条文の文言からは直ちには導けません。もし、場所的接着性を独立の要件として答案に記載するのであれば解釈論が必要になります。

一般に犯人が犯行現場から遠く離れるほど、犯行と逮捕の時間的接着性が稀薄になるとともに、犯人がそれ以外の者と混同され犯人の特定性が失なわれるおそれがある。したがって、現行犯人の要件として場所的関係を無視することはできず、……時間的段階の範囲内にあっても、犯人が犯行現場から遠く離れ去った場合には現行犯性を失なうものといわねばならない

古城敏雄「現行犯の意義および範囲」判例タイムズ296号99頁

それが面倒であれば、独立の要件ではなく、要件①(犯罪と犯人の明白性)の考慮事情にすぎないと解すればよいです。

要件③逮捕の必要性

逮捕の必要性は、通常逮捕の要件です(199条2項但書、刑訴規則143条の3)。

緊急逮捕の場合、211条は通常逮捕の199条2項但書を準用してはいないものの、逮捕の必要性が不要とされる合理的理由はなく、刑訴規則143条の3が適用されることから逮捕の必要性が要件となると解されています(古江頼隆『事例演習刑事訴訟(第2版)』58頁)。

しかし、現行犯逮捕の場合は、216条は199条2項但書を準用していないし、刑訴規則143条の3に相当する規定もありません。そのため、逮捕の必要性は不要であるとも思えます。

従来は不要説もありましたが、現在では、逮捕の必要性を要件とする見解が多数説です(大阪高判昭和60.12.18、東京高判平成20.5.15)。逮捕の必要がない場合は、身柄を拘束する実質的根拠に乏しいため、現行犯逮捕においても逮捕の必要性が要件になっていると解すべきです(白取・後藤『新・コンメンタール刑事訴訟法(第3版)』539頁)。

もっとも、逮捕の必要性を要件とするといっても、通常逮捕の199条2項但書と同様、「明らかに逮捕の必要がない」ときに逮捕の必要性を欠くということにすぎません。

刑事訴訟法199条(逮捕状による逮捕の要件)
1 ……
2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
3 ……

刑事訴訟法規則143条の3(明らかに逮捕の必要がない場合)
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

準現行犯逮捕の要件

【要件】

  1. 212条2項各号のいずれかに当たること
  2. 犯罪と逮捕とが時間的(場所的)に近接していること、及び、それが逮捕者にとって明白であること
  3. 逮捕者にとって、犯罪と被逮捕者が犯人であることが明白であること
  4. 逮捕の必要性:明らかに逮捕の必要がないとはいえないこと

準現行犯逮捕について検討する際には、まず212条2項各号該当性から検討し、その次に、「罪を行い終わっていから間がないと明らかに認められる」かどうかを検討します(平成25年司法試験採点実感)。

要件① 212条2項各号該当性

 準現行犯逮捕の場合は、現行犯逮捕と異なり、逮捕者が直接犯行を現認する必要はありません。その代わり、犯罪と犯人の明白性の判断が弛緩しないように、逮捕者が、212条2項各号事由のいずれかに該当することを直接認識する必要があります。要件①は、犯人と犯人の明白性の判断を担保するものです。

  1. 犯人として追呼されているとき(1号)。
  2. 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき(2号)。
  3. 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき(3号)。
  4. 誰何されて逃走しようとするとき(4号)。

「犯人として追呼されているとき」(1号)とは、その者が犯人であることを明確に認識している者により、逮捕を前提とする追跡又は呼号を受けていることをいいます。無言で追跡する場合や、追跡せずに声だけで叫んでいる場合も含まれます(白取・後藤『新・コンメンタール刑事訴訟法(第3版)』537頁)。

「贓物又は・・・・・・兇器その他の物」(2号)とは、犯罪を組成した物、犯罪から生じた物、犯罪から得た物などを指します。また「所持」とは、現に身につけていること、携帯していること、これらに準じて事実上の支配下に置く場合を指します。
判例は、必ずしも逮捕の瞬間に同号記載物件を所持している必要はないとしています(最判昭和30年12月16日)。

「犯罪の顕著な証跡があるとき」(3号)は、殺人事件で被害者を目前に、血だらけの者がいたり、血の付いたナイフを所持した者がいたりする場合が典型例です。

「誰何」(4号)については、必ずしも名前を問う必要はなく、呼び止められて逃げ出したような場合でもよいとされています。また、捜査機関による誰何だけでなく、私人によるものでも構いません(白取・後藤『新・コンメンタール刑事訴訟法(第3版)』538頁)。

要件② 犯罪と逮捕の時間的接着性

この要件は、「罪を行い終ってから間がない」という文言から導かれます。犯行の直後である必要はないという点で、現行犯逮捕の場合よりも緩和されています。

判例には、犯行後1時間ないし1時間40分経過後、犯行場所から約4㎞離れた地点での逮捕を適法としたものがあります。

要件③ 犯罪と犯人の明白性

準現行犯人を現行犯人とみなして逮捕状なくして逮捕できるとされているのは、準現行犯人もまた犯罪と犯人とが逮捕者にとって明白であって誤認逮捕のおそれが少ないことから、憲法35条の令状主義の合理的な例外であり得るからであるとすれば、準現行犯逮捕においても犯罪と犯人の明白性が必要であり、この要件は、「犯行を行い終って……明らかに認められる」という文言に含まれていると考えられます(古江頼隆『事例演習刑事訴訟(第2版)』72頁)。

要件④ 逮捕の必要性

準現行犯逮捕については、逮捕の必要性を要求する明文規定がありません。しかし、明らかに逮捕の必要がない場合は、身柄を拘束する実質的根拠に乏しく、準現行犯逮捕についても、逮捕の必要性は要件になっていると解すべきです。

関連論点

共謀共同正犯の現行犯逮捕(準現行犯逮捕)の可否

問題の所在

Q.実行行為に及んでいない共謀共同正犯者を現行犯逮捕できるでしょうか。

現行犯逮捕を行うためには、逮捕者にとって、被疑者が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった」ことが明白であるといえることが必要であるところ(212条1項)、実行行為に及んでいない単なる共謀者について、現行性(時間的接着性)と明白性があるといえるかが問題になります。

この問題を検討するに当たっては、①明白性の要件が、実行行為者による実行行為のみに向けられているのか、それとも共謀まで含むのか、②後者の見解を採る場合には、共謀とは謀議行為を指すのか、意思の連絡を指すのかを検討しなければなりません(平成25年司法試験採点実感)。

明白性の要件について(上記①)

 現行犯逮捕が令状なくして認められる(憲法33条)のは、現行犯の場合、現場における客観的状況等から逮捕者にとって犯罪と被逮捕者との結びつきが明白で誤認逮捕のおそれが低くいからです。犯罪と犯人の明白性が認められるのであれば共謀者を除く必要はありません。また、212条1項も「実行行為を行い」ではなく「罪を行い」としており、対象を実行行為者に限定していません
 したがって、明白性の要件は、実行行為者による実行行為のみに向けられているのではなく、共謀まで含むと解すべきです。

したがって、❶共謀にかかる犯罪の明白性、犯人の明白性があり、❷犯行と逮捕との時間的接着性、❸逮捕の必要性があることが必要です。また、共謀は、正犯者の実行行為を前提とするため、❹実行行為者について犯罪と犯人の明白性が必要です。

共謀について(上記②)

主観的謀議説客観的謀議説があります。

主観的謀議説(実務の有力説)

共謀とは、謀議「行為」ではなく「意思の連絡」を意味するとし、共謀共同正犯における共謀を実行行為時における犯罪共同遂行の合意と解した上で、謀議行為は「罪となるべき事実」である「事実行為時における犯罪共同遂行の合意」という意味での共謀を推認させる間接事実に過ぎないと解する。

客観的謀議説

共謀は謀議「行為」を意味するとし、共謀共同正犯の成立には単なる意思連絡(共同犯行の認識)を超えた客観的な連絡行為が必要であり、これが実行共同正犯における客観的要件である「2人以上の者の実行行為の分担」に比すべきもので、共謀共同正犯の客観的要件でもあると解する。

主観的謀議説よると、特に共謀からの離脱がない限り、実行行為時まで共謀の継続が認められるため、実行行為時を基準に、共謀と逮捕の時間的接着性判断することになります(客観的な謀議行為との時間的接着性は不要)。

現行犯逮捕と正当防衛

Q.被疑者の行為について正当防衛が成立する場合にも現行犯逮捕することができるのでしょうか。

この問題は、現行犯逮捕の要件①の「犯罪の明白性」に関する論点です。

この点については、「現行犯逮捕が問題となる状況で違法性阻却事由の有無を正確に判断することは困難であり、犯罪構成要件に該当する行為は違法であるとの事実上の推定を受けるから、特定の犯罪構成要件に該当する行為があれば、基本的に犯罪の明白性は認められる」べきです(京都地判平成24.6.7)。

もっとも、被疑者の行為が特定の犯罪構成要件に該当する場合であっても、違法性阻却事由にあたる事実があるときは、令状による逮捕も令状の発付もできません(責任阻却事由にあたる事実がある場合も同様)。

そうであるならば、令状主義の例外としての現行犯逮捕についても同様に考えるべきです(被疑者の行為は212条1項の「罪」に当たらないと解すべきです)。 京都地判平成24.6.7も、「違法性を欠くことが明らかな場合や違法性阻却事由の存在する疑いが認められる積極的な事情がる場合は、犯罪の明白性を欠き、現行犯逮捕は許されない。」としています。

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