[刑訴法]接見交通権、接見指定

刑事訴訟法
ほくる
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接見交通権とは、どのような権利でしょうか。

接見指定、接見の時期、秘密接見など色々な問題があります。

まず、接見の外観を説明して、

次に、接見指定、起訴後の接見指定について

最後に、秘密接見について説明します。

接見とは

刑事訴訟法39条(被告人・被疑者の接見交通)
1 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第31条第2項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
2 前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。
3 検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。

39条1項の「接見」とは、身柄拘束を受けている被疑者又は被告人が、嫌疑を受けた事件から自己を防衛するため、弁護人又は弁護人となろうとする者と直接会い、相互に意思を伝達することをいいます。

接見交通権とは、接見や書類等の授受の権利をいいます。

接見交通権

①被疑者と弁護人等との接見交通権(39条)

②弁護人等以外の者(一般人)との接見交通権(207条1項、80条)

刑事訴訟法39条に規定している「弁護人接見交通権」(上記①)は、以下のような特徴があります。

弁護人接見交通権の特徴

①「秘密交通権」
 接見の内容が捜査機関に知られると、弁護人又は弁護人となろうとする者と被疑者又は被告人との間で自由な情報交換ができなくなるおそれがあるため、被疑者又は被告人は捜査機関の立会いなく接見することができます。

②「固有権」
接見交通権は、弁護活動に必要不可欠な権利であり、被疑者・被告人の権利であると同時に弁護人の権利(固有権)でもあります。

接見交通権の制約

接見交通権は無制限に認められるわけではありません。以下のような制限があります。

1.法令による制限
 39条2項は、法令(裁判所の規則を含む)で、被疑者・被告人の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障がある物の授受を防ぐため、必要な措置を規定することができると定めています。これに基づき、刑事収容施設法145条及び刑事規則30条において、接見及び授受を制限する規定が置かれています。

●刑事収容施設法145条⇒信書の発受の制限
●刑事規則30条⇒裁判所による接見指定、書類等の授受の禁止

2.接見指定(検察官、検察事務官、司法警察職員による)
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、39条1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができます(39条3項)。

接見指定制度の合憲性

問題点

接見指定制度は、弁護人依頼権(憲法34条前段)を侵害するとして憲法に反しないのでしょうか。

憲法34条
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

接見交通権は、憲法で保障されています。
憲法34条前段は、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しています。39条1項は、憲法34条の趣旨を受けて弁護人からの援助を受ける機会を確保するために設けられたものであり、接見交通権は憲法の保障に由来するものです。

絶対的な性質の権利ではないので、調整が必要です。
もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし捜査権の行使が国家の機能であることを当然の前提とするものであるため、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできません
 そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもありますが、憲法はこのような取調べを否定するものではないため、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければなりません。

趣旨が実質的に保護されていれば憲法違反ではありません。
したがって、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、39条3項本文は、憲法34条に反しません(最判平成11.3.24)。

接見指定の要件

【接見指定の要件】

  1. 「捜査のため必要があるとき」(39条3項)
  2. 「公訴の提起前」(39条3項)
  3. 「指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」(39条3項但書)
接見指定の適法性の判断枠組

1.接見指定の可否(39条3項の「捜査のため必要があるとき」に該当するか)
 ↓接見指定できるとして(上記要件を充足するとして)
2.指定内容の適否(39条3項但書の「被疑者の防御の準備をする権利を不当に制限するもの」に該当するか)

※後述する最判平成12.6.13は、弁護人となろうとする者との逮捕直後の初回接見を「指定内容の適否」の問題として捉えています。

要件①「捜査のため必要があるとき」

39条3項に基づき接見指定権を行使できるのは「捜査のため必要があるとき」(39条3項本文)です。

.どのような場合がこれに当たるのか、「捜査のため必要があるとき」の意義が問題になります。

限定説

被疑者を現に取り調べているときや、実況見分・検証等に立ち会わせているときなど、捜査機関が被疑者の身体を現に利用している場合に限られる。

準限定説(判例)

限定説が挙げる場合に加えて、間近い時に取調べや実況見分、検証等の確実な予定がある場合も含む

非限定説(捜査全般説)

限定説・準限定説の場合だけでなく、罪証隠滅の防止等をも含めて、弁護人からの申出どおりの接見を認めたのでは捜査全般の遂行に支障が生じうる場合を広く含む

非限定説では罪証隠滅のおそれがあれば「捜査のため必要があるとき」に当たるのに対し、限定説・準限定説では、いかに罪証隠滅のおそれが高かろうと、被疑者の身体を利用する捜査に支障が生じないならば「捜査のため必要があるとき」に当たらないことになります。

判例の見解

 判例は、接見指定制度の趣旨について、身柄拘束の期間に厳格な時間的制限があることなどにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものと解し、「捜査のため必要があるとき」とは、取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生じる場合に限られるとして、接見指定の要件を限定的に解しています。

 具体的には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むとしています(準限定説、最判平成3.5.10、最判平成11.3.24)。

 ただし、判例は、現に取調べ中である等の場合には「原則として」捜査のため必要があるときに当たるとするだけであり、現に取調べ中等であっても、それを一時中断したり開始を遅らせても捜査に顕著な支障が生じないのであれば、「捜査のため必要があるとき」に当たらず、接見指定はできないと考えられます。

論証例

39条3項本文は、刑訴法において身柄拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること(198条1項)、被疑者の身柄拘束に厳格な時間的制約があることなどに鑑み、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使(39条1項、憲法37条3項)との調整を図る趣旨で置かれたものである。

そうすると、「捜査のため必要があるとき」とは、弁護人等の申出どおりの接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生じる場合に限られると解すべきである。

具体的には、被疑者を取調べ中である場合や、実況見分・検証等に立ち会わせている場合、間近い時に取調べ等をする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは取調べ等が予定通り開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として、取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生じる場合に当たると解すべきである。

要件②「公訴の提起前」

起訴後は、接見指定をすることができません(39条3項本文)。

被疑者と弁護人の接見・・・接見指定できる

公訴提起後の被告人と弁護人の接見・・・接見指定できない

被告人と弁護人の接見は、公判のための準備活動です。

接見指定が「公訴の提起前」に限定されるのは、起訴後は被告人と検察官が対等な当事者の関係に立つため、検察官が他方当事者である被告人の接見を制限できるとするのは妥当ではないからです。

また、起訴後の勾留には、起訴前の身柄拘束のような厳しい時間制限がないため、被疑者の取調べ等の捜査と接見交通を時間的に調整するという接見指定制度の趣旨が妥当しません。

この要件との関係で「起訴後の接見指定」ないし「起訴後の余罪捜査と接見指定」と呼ばれる論点があります。この点については、後述します。

要件③「防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない」

「捜査のため必要があるとき」にあたり、接見指定ができる場合であっても、その指定は、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならず(39条3項但書)、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のため日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきです(最判平成12.6.13)。

初回接見

最判平成12.6.13

初回接見は、被疑者のために重要
逮捕後の初回接見は、身柄拘束された被疑者にとって、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を得るための最初の機会であり、憲法34条の保障の出発点をなすものであるから、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要です。

捜査機関も気を遣うべき
したがって、接見の申出を受けた捜査機関は、接見指定に当たっては、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し、これが可能なときは、留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情のない限り、犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後において、たとえ比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきです。

このような場合に被疑者の取調べを理由に上記時点での接見を拒否するような指定をし、被疑者と弁護人になろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは、被疑者の防御の準備をする権利を不当に制限することになります。

【注意】「逮捕直後の初回の接見であれば、およそ即時又は近接した時点での接見を許さなければならないとしたものではな」く、弁護人等との「協議と検討を行った上で、即時又は近接した時点での接見を認めれば接見時間の指定をしても捜査に顕著な支障が生じると合理的に判断される場合にまで、本判決の射程が及ぶものではない」(調査官)です。

 即時又は近接した時点での短時間の接見を認めると捜査に顕著な支障が生じる場合には、逮捕直後の初回接見であっても、即時又は近接した時点よりも後の日時を指定することが許されます(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』165頁)。

論証例

39条3項但書の趣旨は、捜査機関のする接見等の日時などの指定はあくまでも必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することを許さない点にある。

とすると、39条3項本文の要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないと解すべきである。

(特に初回接見は、身柄拘束された被疑者にとって、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後の捜査機関の取調べを受けるにあたっての助言を受けるための最初の機会であって、防御の準備のために特に重要なものである。したがって、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し、可能なときは、特段の事情がない限り、被疑者引致後に続く所定の手続後、短時間であっても時間を指定して即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきである。)

起訴後の接見指定(起訴後の余罪捜査と接見指定)

.起訴後勾留中の被告人に余罪(起訴事実以外の事実)がある場合に、この余罪の捜査を理由に「捜査のため必要がある」として接見指定できるのでしょうか。

余罪について逮捕・勾留されていない場合

余罪を理由に接見指定権を行使することはできません(最決昭和41.7.26)。

理由
  • (条文からの説明)
    ⇒捜査機関の接見指定権は、「身体の拘束を受けている」「被疑者」に対して発生するものであり、逮捕・勾留されていない者や被告人に対しては発生しない(39条1項、3項)。
  • (制度趣旨からの説明)
    ⇒接見指定の趣旨は、被疑者の身柄拘束については厳格な時間的制約があることに鑑み、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る点にあるところ、余罪については身柄拘束されていない以上、上記趣旨が妥当しない。

余罪について逮捕・勾留されている場合

被告事件と被疑事件の弁護人が共通である場合

起訴された事件(被告事件)について防御権の不当な制限にわたらない限り、余罪(被疑事件)について接見指定権を行使できます(最決昭和55.4.28)。

理由
  • 接見指定の趣旨は、被疑者の身柄拘束については厳格な時間的制約があることに鑑み、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る点にある。たとえ被告人であっても、同時に余罪で逮捕・勾留されている場合には、余罪について厳格な時間的制約があるから上記趣旨が妥当する。
  • 接見指定が認められる結果、被告事件についての接見が制限されることになるとしても、それは被告事件の捜査を理由に接見を制限するわけではないから、接見指定は公訴提起前に限るとした法の趣旨には反しない。

被告事件と被疑事件で弁護人が異なる場合

被告事件について防御権の不当な制限にわたらない限り、接見指定権を行使できます(最決平成13.2.7)。

理由

接見の日時等を指定できることの根拠は、接見によって被疑者の身体を利用する捜査が中断し、捜査に顕著な支障が生じる点にある。とすると、被告事件の接見によって被疑事件の捜査が中断するか否かが問題であって、その場合に両事件の弁護人が同一か否かは意味を持たないため、弁護人が異なっていても接見指定は認められる(大澤裕・平成13年度重要判例解説190頁)。

秘密交通権の侵害

.接見後に捜査機関が被疑者・被告人に接見内容を聴取してもよいでしょうか

39条1項は、「立会人なしに」接見できると定めて、接見の秘密性を保障しています。

39条1項によって秘密の接見交通権が保障されている趣旨は、委縮効果が生じることなく自由な意思疎通を図ることによって、被疑者等が弁護人等から有効かつ適切な助言を得られるようにする点にあります(福岡高判平成23年7月1日)。

とすると、捜査機関が、事後に被疑者等から接見内容を聴取することも原則として許されないと解すべきです。一方で、接見内容が事案の真相解明に資する場合もあり、捜査上の利益が認められる側面も有しています。そのため、秘密交通権はいかなる限度で保障されるか問題です。

禁止接見の場で交換された意見・情報は絶対的に保障されると考え、捜査機関が接見内容を明らかにさせることを許されないとの考え方
許容秘密交通権は、捜査権に絶対的に優先する性質ではなく、接見内容に関する事実の聴取も許容される場合があるとの考え方
1秘密交通権侵害が違法になるかは、聴取の目的も正当性、聴取の必要性、聴取した接見内容の範囲、聴取態様など諸般の事情を総合して考慮して判断するとの考え方
2秘密交通権侵害が違法となるかは、聴取の対象となる事実について秘密性が喪失しており、実質的に被疑者と弁護人との意思疎通が侵害されるといえるか否かによって判断するとの考え方
例外的に接見内容の聴取が許される場合の例
  • 接見交通権の行使自体が濫用と評価される場合(鹿児島地裁平成20.3.24)
  • 捜査機関からの意図的な働き掛けなく被疑者・被告人が自発的に接見内容を供述した場合(福岡高判平成23.7.1)
  • 接見内容を聴取する合理的な理由があり、かつ、聴取がその範囲内で行われる場合(京都地判平成22.3.24、佐賀地判平成22.12.17)

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